血液循環の主役は毛細血管

      2017/08/14

「血液循環」といわれたとき、どんな血管を流れる血液を思い浮かべるだろうか。

たぶん、ホースか、細くても一ミリメートル程度のチューブ状の血管を流れる血液のイメージだろう。

私たちの血管のイメージは、太い筒状のイメージに固定されている。しかし、血液循環でいちばん大切なのは、私たちの目には見えない極組の毛細血管なのだ。

心臓から血液が送り出される大動脈は、直径三センチメートル(内径二・五センチメートル)。

直径一センチメートルから五ミリメートル程度の動脈が枝分かれして各臓器に向かう。

その先はどんどん枝分かれして細くなり、いちばん末梢に近い細小動脈では、血管の直径は五〇マイクロメートル(マイクロメートルは一〇〇〇分の一ミリメートル)以下になる。

さらに、体のすみずみまで文字どおり「網の目のように」張りめぐらされてい&ぞ細血管どなったら、その直径は六
マィグロメートル前後しかない。

そして、この毛細血管こそが、実質的に体のすべての細胞に酸素を供給しているのだ。毛細血管は、毛のように細い血管という意味だが、髪の毛は細くても一〇〇マイクロメートル前後ある。実際は、髪の毛の二〇分の一の細さだ。目では絶対に見えない。

拡大して五~六ミリメートルの大さに見えるだけだ。

血管の総延長は一〇万キロメートルといわれるが、その大部分は毛細血管だったのだ。つまり、体中に酸素と栄養を供給する血液循環とは、毛細血管の循環のことだといっても過言ではない。

私たちがイメージする血管は、毛細血管に血液を供給するための配管にすぎなかったのだ。

どれだけ私たちの体は、毛細血管によっているかをみてみよう。

私たちの体は六〇兆個の細胞からできているといわれる。この値はもちろん、実測で得られたものではない。

組織の細胞の大きさは、およそ一〇マイクロメートルの立方体(一〇マイクロメートル×一〇マイクロメートル×一〇マイクロメートル)である。体の比重はほぼ一なので、六〇キログラムの体重の人の体積は六〇リットルだ。この総体積を細胞一個の平均体積で割ると、細胞総数は六〇兆個になる。三キログラムの赤ん坊では、三兆個になる。

酸素が拡散で十分に到達できる距離は、五〇マイクロメートルだから、同様の計算に基づいて求めると、体表(体表面積、身長一七〇センチメートル、体重六〇キログラムで約一・七平方メートル)から直接酸素を受け取れる細胞の数は、八五〇億個となる。

これは全体の○。一四パーセントにすぎない。つまり、外界の酸素にふれない体の内部の九九・八六パーセントの細胞は、毛細血管から酸素を受け取っているのだ。

では、毛細血管は体の中にどれだけあるのだろうか。

組織によっても異なるが、毛細血管の径は六マイクロメートル、長さは六〇〇マイクロメートル程度だ。毛細血管から五〇マイクロメートル以上離れている細胞はないといわれている。

一本の毛細血管が養う組織を、毛細血管の中心から五〇マイクロメートル以内の円筒部分の組織とすると、その円筒部分の体積が求められる。

人間の体積を一本の毛細血管が養う組織の体積で割ることによって、毛細血管の数は一三〇億本、総延長は八〇〇〇キロメートルと計算される。

「毛細血管は一〇万キロメートルではなかったか?」と不思議に思う人がいるかもしれない。

実は、この計算は安静時についてのものなのだ。筋肉では、運動時に安静時の二〇倍以上にも血流が増加する。そのためには、二〇倍以上の血圧が必要となる。しかし、それは明らかに、ありえない。では、どうするかP 実際には血管の本数が増加することによって、血流量の増加が
得られている。

もちろん、血管が運動するたびに新しくつくられるということではない。運動のときの酸素要求量にも十分にこたえられるだけの血管の総数が体には備わっているということなのだ。

つまり、安静時にはその二〇分の一しか使われていないというわけだ。筋肉ほどでないにしても、筋肉以外の組織も同様だ。すなわち、全身の細胞が最大に酸素を要求した場合でも、酸素が十分に供給できるように毛細血管が体中に張りめぐらされているのだ。

したがって、毛組血管の総本数は一五〇〇億本がヶ一六〇0億本、′その総延‐長‐一〇万キ‐,メトトルが妥当な見積もりになる。

心臓や脳、網膜など、特に酸素消費量の大きい組織では、常にその要求を満たせるだけの毛細血管が使われている。

一本の毛細血管の周囲に組織が円筒状に存在するわけではないが、 一つのモデルとして組織の円筒を考えるという方法は、生理学で、よく行われることだ。最初に考えた人の名前をつけて、クローの組織円筒モデルと呼ばれている。発案者は、デンマークの生理学者で、その毛細血管の研究によって、 一九二〇年、ノーベル医学。生理学賞を受賞している。

また、「血液循環」を証明したのは、ウイリアム・ハーヴェイ。 一〇年以上にわたる研究の成果を、 三全一八年に発表した。

医学の長い歴史の中で、血液循環の発見は意外と遅かったのだ。ハーヴェイが苦労したのも、毛細血管が目に見えず、血液が動脈から静脈へどうやって移るのかわからなかったからだ。動脈を糸で縛る(結紫という)と心臓側がふくれ、静脈を結紫すると心臓と反対側の末梢側がふくれる、といった研究を積み重ねて、「血液循環」を疑う余地のないものにしたのだ。

毛細血管は、体のすみずみにまで張りめぐらされているので、その「すみずみ」には、太い血管の血管壁も含まれている。五〇マイクロメートル以上の厚さをもつ血管壁の外層の細胞は、血管内の血液から、酸素を十分に受け取ることができない。

酸素は外層に張りめぐらされた毛細血管から受け取っているのだ。そのような血管壁自体を養うための血管は、栄養血管と呼ばれている。栄養血管の血流の善し悪しは、血管壁の代謝を左右し、動脈硬化の進行と深くかかわっている

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